梅雨晴れのある日。
梅の収穫を手伝うため、島の最南端に位置する崎地区へ。
最初は紅映(べにさし)という品種の梅を収穫。
日光が当たっていた部分は鮮やかに紅が差し、すもものような甘酸っぱい香りがする。
種が小さく果肉が厚いので、梅干しに適しているそう。
収穫しながら、崎地区の梅にまつわるお話を聞く。
ここにある梅の木のほとんどは、2004年に島おこしプロジェクトの一環で植えられたもの。
当時、地元産の自然塩「隠岐國・海士乃塩」を活かそうと梅干しづくりが構想され、各地区から梅が集められた。縁あってプロジェクトに関与していた食の研究家、中村成子氏の目に留まったのが崎地区の梅であった。
鳥取県の大山を望む高台にあった1本の梅の大木は、神在月に「ご神木」として奉られ、「蘇婆訶(そわか)姫」と銘々された。中村氏の提案でその周囲を梅林にすべく、神奈川県小田原市にある曽我梅林の梅農家さんから計140本の良質な梅の苗木・若木を手配してもらったそう。地区や役場の方々の手で植樹され「蘇婆訶梅林」となる。そして、梅林近くにある旧崎小学校校舎を「海士蘇婆訶塾」とし、廃校に地域の交流拠点としての息吹をもたらした*。
紅映の収穫を終えたら場所を変えて、異なる品種の梅の元へ。
「これはなんていう梅ですか?」
「バイゴーです。」
「バイスィコー?」「え、自転車?!しかも英語?!!」
なーんて、クールな聞き間違えにみんなで笑いつつ、どんどん作業を進めていく。
聞き間違えたのは、梅郷(ばいごう)という品種の青梅で、梅酒や梅シロップに最適。
熟した果実は地面に落ちてしまう。
ほとんど人に踏まれておらず、ところどころに日が差し込み、とてもきれい。
まだ熟してない青梅を収穫するため、木の下に入り込む。
見上げると、たわわに実る梅、梅、梅。
「量が多すぎて、気が遠くなりそう…」
途中から、1人が木を揺らし、落ちた梅を他の人が根こそぎ拾う作戦に。
梅の香りに包まれながら涼しい木陰で行う作業はとっても気持ちがいい。
収穫後は、旧崎小体育館で選果作業。
味は同じなのにもったいない…と思いつつ、傷がついたもの、見た目の悪いものはB級品へ。
B級品は好きなだけ持ち帰ってよいということだったので、梅郷を袋いっぱい、3キロ分いただいた。
持ち帰ったら、Iターンの友人と人生初の“梅しごと”に取り掛かる。
まずは、爪楊枝でヘタを取り除き、洗って、キッチンペーパーで一つ一つ丁寧に水分を拭きとる。ついでに計量して1キロずつに分けておく。
せっかくなので、3通りの梅レシピを試してみることに。
1キロは氷砂糖1キロとともに瓶に入れて終わり。
数カ月たったら梅シロップが完成しているはず。
次の1キロも梅シロップに。ただ、何ヶ月も待てないので炊飯器を利用してみる。
1キロの梅に対して1キロの氷砂糖を入れ、保温スイッチオン。
8時間後が楽しみ。
最後の1キロは、近所の商店のおばちゃんに教えてもらった梅ドレッシングにすることに。
梅1キロに、味噌1キロ、砂糖1キロ(より少し少なめ)。
今回使ったのは、地元で加工されたお味噌。
梅ドレッシングをつくる場合は、錦味噌(島根県松江市)を使ったほうがおいしいという声もあるので、是非とも食べ比べてみたい。
きれいに伸ばして、蓋をして、冷蔵庫へ。数ヶ月放置。
液体とその他のものが完全に分離したら食べごろらしい。
厳密にどのくらいの期間でできるのかは分からないが、おばちゃん曰く、去年漬けこみ、冷蔵庫に入れっぱなしになっていた梅ドレッシングは、1年経っても“どげだいなく”(どうってことなく)美味しく食べれたそう。
気長に待ってみよう。
さてさて、炊飯器の梅はどうなっただろう。
保温スイッチを入れてから8時間後、透明なシロップが完成。
炭酸水で割って飲んでみると、少し酸味が強めの美味しい梅ジュースだった。
ただ、氷砂糖が溶け切っておらず果実はまだまだ酸っぱいままだったので、保温続行。
丸1日ほど放置。
すると、シロップはアメ色になり、梅の実はしわっしわに。
再び炭酸水で割って試飲。甘味が増してさらに美味しくなっていた。
実もちょうどいい甘さになり、お茶請けやおやつにぴったり。
疲労回復に効果があるので、これからの夏バテの季節に重宝しそう。
ちなみにこの時期は、梅のおすそ分けが増えるので多くの人が梅職人となる。
近所のおばちゃん宅のお茶請けは煮梅が定番。
友人宅ではビスケットに自家製梅ジャムを添えたお茶菓子でティータイムを過ごした。
地元で採れた旬のものを使って、一手間二手間かけたられたお茶菓子やドリンクとともに世間話に勤しむ午後のひと時。ここでは当たり前の日常だが、とっても贅沢な時間。
*参照文献
中村成子, 2009, 『季節のめぐりの中で 梅しごと』文化出版局.