横尾忠則さんのエッセイ
『言葉を離れる』
この本は広く皆さんにおすすめできません。おすすめは出来ませんが、私は面白く読みました。言葉を離れるというタイトルながら、言葉に対してとても真摯で謙虚で、最初から最後まで大切にしているのが文章から伝わります。
では何故広くおすすめ出来ないのか。それはP193の8行目から約2ページ少々続く映画の話。これがこの本のハイライトです。もし図書館でこの本を見つけたらこの2ページだけ開いてみてほしい。もうすごいです。横尾さん自身が撮りたい映画を頭の中で妄想するというシーンなのですが、???!!!です。
私のイメージで書くとすると、横尾さんが生涯で見た映画をシュレッダーで裁断して、もうその場面の言葉は聞けない、その印象的な場面の色の断片しかわからない。そんなイメージを繋げて映像にする。そんな妄想を文章にした2ページちょっと。
とてもエキサイティングで体温が上気している熱がこちらにも伝わってくるようです。理解しようというのではなくて、パワフルな創造の熱気を感じたい。そんな読書を求めている人には合うかもしれません。
全体を俯瞰して思うのは、やはり言葉です。言葉は何かを理解するのにとても便利です。言葉になっていないものは、理解しているのか怪しくなってくるほどです。けれど、言葉になった瞬間に見えていた周辺の映像が抜け落ちて、理解がシンプルになってしまうということもよく経験することだと思います。意外と核心の部分よりも周辺の抜け落ちた部分が大事だったということもありそうです。
言葉と言葉を離れたもの。この本ではそれを「アンファンテリスム(子供っぽさみたいな意味)」という語で繰り返し語っています。それは、本当に面白いことは本能が知っているということかもしれません。
ただそれは対象をよく見つめ、とらえたいという願いからきているのかなと。これは想像です。