「雲を紡ぐ」 伊吹有喜
どんなことに心が動いたか。最近「読書メモ」のようなものを書くようにしている。カレンダーの裏に、本のこともそれ以外のことも。その時聞いた話だったり、見た風景だったり、気になった音だったりを書く。断片的なものが集まってる。
「図書館の本を紹介するようなことをやらせてもらえませんか?」そんな提案をさせてもらったのが、5月の終わりごろ。一ヶ月に一本くらい本の紹介文が書けたらいいなと思って、最初に借りたのが伊吹有喜さんの「雲を紡ぐ」。新刊コーナー横のおすすめコーナーにあったものを手に取った。
今、この文章を書きながらカレンダーの裏を見返して、誰かと誰かの二人のシーン。主人公である美緒と祖父、祖父と父、祖父と母の場面が多く並ぶ。二人の間の空気が穏やかになる感じがこの本ではよく表現されていた。
私が特に好きなのは、美緒と祖父が食事を一緒に作るシーン(p84)。そして祖父と母がイギリスのお菓子にまつわるお話を語り合うシーン(p204)。
そんな場面のひとつで、祖父が美緒に「心の底からわくわくするものは何だ」と問うシーンがある。その場面の最後もとても穏やかな終わり方をする(p122)。岩手県のホームスパンという羊毛から紡いだ布づくりの仕事が主題となっているこの作品。糸を紡ぐ様子も、人と人が接する様子も、とてもやさしさを抱きながら書かれている気がする。
わたしも心の底からわくわくすることと、誰か目の前にいる人と穏やかな時間が流れる、そんな瞬間を多く持ちたいと思った。そんなやさしさを持った作品です。