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特集 > 島で家庭水田をはじめました。
2021.05.07

島の人たちの深い懐(5月の家庭水田②)

5月になり、いよいよ1ヶ月後には田植えを控えるところまできました。

田植えの前には「代掻き」といって、田んぼに水を入れて土を細かく砕き、
丁寧に土をかき混ぜて、田んぼの表面を平らにしていく作業があるようです。

4月の下旬くらいになると「もう田んぼ、まぜくったか?」と、
島の人たちから言われることがあったのですが、まさにこれこそが代掻きですね。

ということで、まずは田んぼに入水。

 

 

通常、海士町でもほとんどの人が代掻きをトラクターでやるそうですが、
僕がお借りしているような小さな田んぼでは大きな機械が入りにくいので、
またもや田んぼの師匠である宮崎さんに相談をさせていただき、
今回は耕運機をお借りして、やってみることにしました。

そして意気揚々とはじめたのも束の間、機械が前に進まなくなってしまいました。

「・・・・!?」

どうやら、機械のタイヤが田んぼのぬかるみにはまってしまったことが原因で
一生懸命機械を押しても引っ張っても、びくとも動きません。

僕が困り果てていると、たまたま近くで同じく代掻きの作業をしていた
宇野さん(僕の田んぼの貸し手でもあります)がそれに気づき、
トラクターを降りて我が田んぼまで、様子を見に来てくれました。

「そのタイヤでは、ダメだわい。それから水をもっとしっかり張らんと。」

いくつか助言をもらいつつ、まずは耕運機救出のための手立てを考えます。
最終的には、耕運機と宇野さんのトラクターをロープでくくりつけ、
トラクターの馬力で機械を引っ張るという作戦でやってみたところ、
何とか耕運機を田んぼのぬかるみから引き上げることができました。

こちらが救出時の様子です(本当に助かりました・・・)

 

 

その後に、宇野さんや、偶然そこに通りがかった人たちと話していると、
そもそも水を十分に張っていない状態で作業をはじめたこと、
宮崎さんの田んぼと比べ、僕の田んぼはゆるくなっている箇所があり、
どうしても機械がはまりやすくなるということが分かりました。

どうしたものかと、田んぼを眺めながら話を続けていると、

「そしたら車輪をつけ替えるか。俺がちょっと聞いてやるけん」

と、宇野さんに言っていただき、なんとその翌日には、
宇野さん経由で島の別の方から新たなる耕運機を貸していただき、
そこにこのような車輪をつけて、再度代掻きをすることに。

 

 

本当に宇野さんや宮崎さんはじめ、島のみなさんの助けがあってこそ、
ここまで進めてこられているなと感じる日々ですが、田んぼをきっかけに、
少しずつ広がっていくつながりを、これからもゆっくりと深めていきたい、
改めてそんな風に感じます。

(みなさん、いつも本当にありがとうございます)

さて新たな機械とともに、代掻きを再開した5月6日は朝から快晴。
初夏の風も穏やかで気持ちよく、絶好の農作業日和です。

そして今日は我が同僚や、中学生、高校生にも応援にきてもらい、
機械と手作業の両刀使いで、代掻きを進めていきます。

 

 

機械をタテに、ヨコに入れながら、両サイドの機械が入りにくいところは、
鍬で掘り起こしながら、かき混ぜていきます。この作業がなかなか大変ですが、
ぬかるんだ泥の中に入りながら、みんなでわいわいやると楽しいものです。

 

 

そして約1日をかけて、何とか無事に1回目の代掻きが終了。
ようやく田んぼらしくなってきた光景を見て本当に感無量です。
2日前のトラブルがあったからこそ喜びも一塩。

気持ちの良い天気の中、水の張った田んぼを眺めながら、
お昼に食べる隠岐牛の牛丼は本当に最高の味でした。

 

 

一通り作業が終わって宇野さんに電話をしたところ、田んぼの様子を見に来てくれました。
僕が住んでいる海士町の東地区で米づくりをされている波多さんも一緒に車で覗きに来られ、

「今どき、こげなこまい耕運機で、代掻きやるやるもんはおらんだわな。けど上等上等」

とまずは波多さんが開口一番、及第点を与えてくれてほっと一安心。
ちなみに「こげな」というのは、「このような」という意味で
「こまい」というのは、海士町の方言で「小さい」ということです。

僕も移住して4年目になりますが、宇野さんと波多さんが話す海士弁には、
まだときどき理解が追いつかないときもあります。

そして色々と僕の面倒をみてくれている宇野さんは田んぼを眺めながら、
「ここに水張ったの、久しぶりだなあ。7年、8年はなるかなあ」
と、代掻きの終わった田んぼを眺めながら、ぽつりとつぶやきます。

「昔はここでもち米をつくっとったけど、オヤジが死んでからはやっとらんけん」

と、ピースのたばこに火をつけながら話す宇野さん、そして波多さんと一緒に
田んぼを眺めながら、20分くらいは雑談をしていたような気がします。

まだまだこれからですが、この土地の歩みや小さな歴史を感じながら、
コメづくりをはじめてみてよかったな、と感じる夕暮れのひとときでした。

 






山野 靖暁
Yasuaki Yamano

amatte 編集室 / 海士町在住
1991年生まれ、大阪育ち。京都とノルウェーでの大学生活、東京での会社勤めを経て、2018年に縁あって海士町へ移住。今は教育の仕事に携わりながら、島の暮らしを味わう日々。得意料理はだし巻き卵で、吉田修一さんの書くエッセイが好き。

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