10月に入った頃から海士町のいたるところでたくさんの実をつけた柿の木を発見。
「今年は柿年だぁ」
いろんな人から聞く言葉。どうやら、柿がたくさんできる年とまったくできない年があるらしい。
柿の木のオレンジ色が濃くなるにつれて、島内で出回る柿も多くなる。商店でも売り出すけど、家庭にあるほとんどの柿はいただきモノ。あま柿や渋柿の渋を抜いたあわせ柿が秋のおすそわけの定番。
ピクニック気分で柿の収穫
いつもお世話になってる近所のおばちゃんが友人と柿を取りに行くとのこと。せっかくなので同行させてもらった。
車で5分。小学校の裏手にある小高い丘の上に立派な渋柿の木があった。お隣には立派な実をつけた柚子の木も。
到着するなり、おばちゃんたちは“熟し”(木で熟した渋柿)を採って食べ始める。
「甘くて美味しいわぁ」
「ほれ、あんたも食べてみなさい」
…渋柿ってそのまま食べていいんだっけ?
少々戸惑いながらも、手渡しでいただいたので皮をやぶって一口。
生まれて初めて食べた熟しは、驚くほど甘くておいしかった。
収穫作業に入る前にまずは旬の味を楽しむ。おばちゃんたちにとっては、柿の出来を確かめる品評会なのかも。
「木で熟したのはうまい」
「持って帰って少し冷やすともっとおいしいよ」
私にとっては新しい発見と学びの会。
ぼちぼち収穫作業に入る。手の届くところはハサミでどんどん切っていく。高いところは高枝バサミで切る。1人が柿のついた枝を地面に落とすと、下で待ち構えている人が落ちた柿を枝から切り離してカゴに入れる。私も枝から実を切り離す作業を手伝うことに。
そしたら
「こら、枝全部切ってしもうたら干し柿にならんだろ」
干し柿にするには、つるす際に必要な枝をT字型に残しておかないといけないらしい。熟し、干し柿用、つるすための枝がうまく残らなかったあわせ柿用。用途に応じてカゴを分けてどんどん収穫作業が進む。
その合間には、隣にあった木からゆずを採るおばちゃん、ワガトコ(自宅)の庭に植えようと柿の木の根元にあったお花を数本根っこから抜いているおばちゃん、座ってまた熟しを食べてるおばちゃん、1人もくもくと作業を続けるおじちゃん。
みんな自分のペースで自分のしたい作業を進めていく。違うことをしていても、口は閉まりません。おばちゃんたち3人はずーっとしゃべりっぱなし。
やーれ、腰がいたい。
やーれ、足がいたい。
やーれ、くたびれた。
そんなことを言いながらも収穫作業は無事に終了。
ちなみにおばちゃんたちでは手の届かない高いところは私が途中まで木に登って、高枝バサミで収穫。ちょっとはお役に立てたようで一安心。
終わったあとも、
「ほれ、あんたそこに美味しそうな熟しがなっとーわ」
「とって食べなさい」
結局、その場で熟しを5ついただきました。
いいものを人にあげる
帰り際、3人のおばちゃんたちが柿を分けようとする。1人は先に帰宅したので、あとの2人で分ける。
「あんた、ちょっとこまい(小さい)のばっかでないかい?」
「これ大きいの持って帰り」
そう言って、おばちゃんがもう1人のおばちゃんのカゴのなかに自分のカゴのなかに入っていた大きい柿を数個入れる。
「いや、あんた、いーて」
「私も大きいのいっぱいあるし、あんたが持って帰り」
柿をカゴに入れられたおばちゃんはもう一度その柿を手にとって、となりのカゴに入れなおす。そんなやり取りが3回も続いたので笑ってしまった。
柿年の風物詩
翌日、近所のおばちゃん家を尋ねると、自宅の玄関前に干し柿のすだれができていた。
「昨日、柿全部むいて干したんよ」
「夜中の12時頃までかかってくたびれた」
干し柿ができる頃には、またおすそ分けのやり取りが活発になるんだろうなぁ。そんなことを考えていると、昨日とは違うおばちゃんが玄関を開けて顔を覗かせる。
「トシちゃーん、柿とり行くぞー。入れもん持って出てこいなー。」
昨日とは違う場所で柿の収穫作業。戻ってからは渋柿の皮むき作業を見よう見まねで手伝ってみる。
私がようやく1つ剥き終える頃、おばちゃんたちは3つも4つも剥き終えている…
それでも100個くらい剥いた頃には大分慣れてきた。次は自分の家にも吊るしてみようかな。
〈後日談〉
お味と見た目のいい干し柿が完成。
お茶請けに、おやつに、小腹が空いたときに召し上がれ。