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2021.04.02

うっかり触れる原体験

大学を休学して海士町にやってきた河本さん。初めは半年間の予定で来島したものの、”もったいない”をうっかり拾ったらすっかり巻き込まれて、ついに島での就職も決まりました。「自分はどう生きるか」という生き方に関心があった河本さんが海士町で触れた”原体験”とは―。
 

 
河本直起さん

神奈川県出身。2020年8月に大学を休学し、大人の島留学* で海士町へ。観光に関わる仕事に従事している。中学時代サッカー部でのポジションはセンターバック。仕事でも前に出る人が気持ちよく働けるよう、つなぎ役や調整を受け持ちたいタイプとのこと。

* 島の事業所と島外の若者の希望に沿った就業体験を行うことで、地域での実践(チャレンジ)を通して地域の力になることを目指し、参加者自らが主体的に学ぶことができる中長期の就業体験移住制度。

 

高校魅力化プロジェクトがきっかけで来島

 

―河本さんは今どういった立場で海士町に関わっていらっしゃるんですか?

大人の島留学で来ていて主に観光の分野で就業しています。大学在学中なのですが、休学して昨年8月から来て約8か月になります。

―何がきっかけで海士町に来ることになったんですか?

6月、7月あたりまで就職活動をしていたのですが、行きたかったところからは内定を貰えなくて。自分がどういう風に生きたいのかあまり見えないまま就職活動を進めていたなと感じ、ちゃんとそこを見つめ直すべきなんだろうなと思いました。それで、東京離れて今まで自分が関わらなかった人たちと関わる場がないかな、と探したんです。
教育学部なので魅力化のことを知っていて、これって面白そうだなと思って魅力化のインターンに応募しました。ただ、魅力化のインターンがもういっぱいだったので、観光業はどう?と大人の島留学を紹介してもらって、その枠組みで来島しました。

―魅力化のどんなところにピンと来ましたか?

高校生のうち半分が本土から来るということを知って、中学生の段階で親元を離れて全然知らないところで3年間を過ごすという決断をする高校生ってどんなだろうと興味がありました。

 

原体験に感化される日々

 

―実際に島前高校生と接する機会はありましたか?

週1、2回学習センターで分からないところを教えたりして働かせてもらったので、接点はできました。

―島前高校生と接してみていかがでしたか?

考えていることの幅が広くて、そのひとつひとつが深いなというのを感じます。
例えば2年生で11か月コスタリカに留学していた高校生がいたんですが、内戦があって友だちが銃で撃たれてなくなってしまうという経験をしてきたんです。そういう経験があるから、自分が紛争地に行って子どもたちにいい未来があるんだということを見せたいって言っていて。まさしく自分の原体験をもって、自分はこう生きていたいということを決めているのがカッコいいなって思います。
そういう高校生と接して、自分自身もこの8か月日々感化されることが多かったです。

―感化されて自分がかわったな、と感じるところはありますか?

就職活動時は広告代理店に行きたかったんですが、入社して何やりたいんですか?と聞かれて答えていたことって、自分が本当にやりたいとじゃなかった。その会社に入るために取り繕っていることでしかなかったなと思います。自分の強い原体験から出てきているものでもないし、説得力もないなと。
海士町にきて全然違う観光という畑にいて、今携わっているオープンアイランド* もまさしくですけど、観光におけるゼロイチ的なことが自分のやりたいことだなって8か月で思えるようになりました。

* 観光から関係へをコンセプトに2021年からスタートする取り組み。島のいいところ(光)を観てもらったり、お客様につつがなく過ごしてもらったりするよりも、予定をうっかり踏み外した先に出くわす島の人同士の関係性や、その時島にあるものとの偶然の出会いを楽しんでもらうために、毎月1回程度のペースで島をひらこうとするもの。

 
去年の11月、12月くらいに、観光関係の全員が集まるミーティングでオープンアイランドについて、みんなアイデアがすごい活発に出てはいたんですけど、それを形にして前に進めていくのを誰がどうやるのかとか見えなくて。みんなすごくいいこと言っているのに、このままで終わりそうっていうのがもったいない、誰もやらないんだったら、自分が整理できるかなって思って。4月以降やりたいこともあったので、そういうのを全部自分なりに整理して、頼まれてないのに資料を勝手に作って、上司に提出しました。それから少しずつ動き出して、今4月から始まるという過程まで行けていて、微力ながら貢献できたかなと感じているところです。今まさに原体験真っ最中ですね。
どこに属するかというより、自分は何をしたいかを考えられるようになってよかったなと思います。

 

島留学から島の職員へ

 

―ちなみに4月からはどうされるんですか?

4月から観光協会に就職です。大学も10月に復学しますが、あと卒論を出すだけなので。

―携わる仕事の中身は変わりそうですか?

観光協会職員としての仕事がたくさんあるので、まずはそれをちゃんと覚えてやっていくということと、オープンアイランドのようなものをやっていきます。担当は特に決まっているものはないのですが、先輩からは企画を前に進めていく力をどんどん発揮してほしいと言われていて、そういうことが求められているんだろうなと感じています。

―オープンアイランドで来る方にはどんなことを感じてほしいですか?

「味蔵」という飲食店があるのですが、そこの店主の方と自分との会話って、「お前は出禁だ!」と言われたり、はたから見てると僕が一方的に怒られているような会話なんですけど、ひとことひとことに愛を感じられるんです。都会でそういう関係を作れる場所ってあんまりないですよね。オープンアイランドで来島する人に、ハートフルな人と人の関係性を見てもらって、いいなって感じてもらいたいなって思います。
あと島前高生と関わるのもいいと思います。高校生がこんなに視座の高いことを考えていると知るのは、参加した人の人生にきっとプラスになる。自分はどうやって生きていくのかという生き方に悩んでいる人がいれば、いい刺激になるんじゃないかなって思います。今自分が島前高校生との窓口を担っていますが、うまく成功させられればなと思ってます。

 

 

―観光協会で今後取り組んでみたいことはありますか?

直近のことで言うと早く業務を覚えないとなと考えています。あと業務を覚えるのと合わせて、もっと海士町のことを知って、お客様にもっと丁寧に詳しく伝えることができればいいなと思っています。島内の走ったことない道を車で走ってみたり。あまんぼうのガイドもちゃんとできるようになりたいです。
まずは業務をちゃんと覚えなきゃなっていうのが強いので、新しいものを生み出していくところまでなかなか手が回らないのですが、既にある素材を商品に落とし込んでいくことができたらいいなと思います。海士町に限らず島前という単位で、もっとプッシュできる素材にうまく光を当てたいです。
今後観光という畑で自分がどういうキャリアを築いていけるのかなっていう期待と不安もありますが、うっかり踏み外して巻き込まれることはこれからも忘れずに、積極的に入っていけたらいいなと思います。

海士町観光協会サイト:海士の島旅
オープンアイランド:観光から関係へ。「オープンアイランド」という新しいコンセプトの旅を一緒につくりませんか。






内山 貴之
Takayuki Uchiyama

amatte 編集室 / 東京在住
1978年生まれ、東京育ち。幼少期の夏休みは両親の故郷鹿児島でリヤカーを引っ張り野山を駆け回って過ごす。「自分だったら生きたくない世界」が今この時にあることが頭の中から追い出せず、国際関係について学んだのちJICAに5年弱勤務。その後国際協力はライフワークにすることにし、家業の南の離島専門の旅行会社・南西旅行開発を継ぐ。2017年大野とともに株式会社余白探究集団を起業。

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