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2020.12.10

お話会 榊原有紀さん×根岸茜さん【後編】

自分で育てた旬の野菜でスパイスカレーをつくる

 

根岸さん 私、スパイスカレーがめちゃめちゃ好きなんです。スパイスもたくさん家にあるので。

もともとお腹がすごく弱いんですよ。関西にいたとき、よくカレー屋さん行って、すぐお腹下してたんです。それやったら自分でつくろうと。スパイスの量を調整しながらやったら、お腹も痛くならんと思うしってことで、やり始めたんです。

 

 

前に根岸家で「一週間カレーチャレンジ」っていうのをやって。一週間日替わりカレーができるかってことで、毎晩カレーにしたんです。その日にもらった魚とかを入れて、全部味を変えて。途中からですけど、ニキビと口内炎と下痢に悩みました。笑

今年の梅雨前ころに、初めてあかね農園で玉ねぎが収穫できたので、カレーをトマト缶以外全部あかね農園の野菜でつくれるようになりました。それまで、玉ねぎだけは買ってたんで。その時期に畑で採れた食材でカレーをつくるっていうのが、楽しくって。

 

もう一度食べたい島の味

 

榊原さん 私シラサリがすごい好き。亀の手。シラサリって言います。多分海士の方言ですね。味蔵行ったときにお吸い物で出てきて「すごい美味しいな」と思って。

 

大野 岩場に亀の手が生えてるのは見るけど、剥がせないですよね。取ろうと思うけど、ガッチガチで素人では取れない。爪が全部剥がれそうになる。

 

 

根岸さん 3週間前にはじめて食べました。大量にもらって。「塩ゆででいい」って言われたんで自分で調理しました。ちょっとまだ見た目との戦いがありますけど、めっちゃ美味しかったです。出汁が出て。

 

シラサリの味噌汁。筆者も最初はそのビジュアルに驚いた。

 

寺田 亀の手はシラサリって海士町のページに載ってました。旬は1,2月。

 

大野 冬になったら採れるのかな。夏は少なくともガッチガチに固まってたよ。

 

三日坊主の私が自然に続けていること

 

根岸さん 同じ話になりますけど、仕事以外で続いたのが農作業ですね。本当に私三日坊主なんですよ。日記も続かへん、筋トレだったりストレッチだったりも続かへん。農作業だけ1年半続きました。

 

榊原さん それは「今度こそ続けようかな」っていう思いがあったんですか。

 

根岸さん あまり意識はしてなかったんです。単に生きるためってこともあるし、やっていて楽しいから続いてるっていうのもあるんですけど。「続けよう」っていうよりかは、自然と続いてるって感じです。

 

寺田 海士に来て、暮らし方変わったじゃない?それで、まとまった時間がとれるようになったとか関係あるのかな。たとえば、職場(畑)行くときの近さが関係していて、結果続けられるようになったとか。

 

榊原さん 通勤時間がなくなって続けられるようになったのかな。

 

根岸さん それもありますね。前は満員電車やったし、行きたくない気持ちが強いままずっと通勤してたから。その点、今は本当に天国ですね。

 

農作業のなかで一番すきなのは「草抜き」

 

大野 農作業の何をしてるときが一番楽しい?

 

根岸さん 私は草抜きです。

 

榊原さん そうなの!?すっごーい!!普通は「それさえなければ」って感じじゃない?

 

根岸さん それがなかったら大分作業ははかどるけど、草抜きが一番好きですね。

 

大野 歯科衛生士と共通項ありそうだなと思うよね。きれいにして、スッキリするっていう。多分似通ってるんだと思う。

 

根岸さん 収穫ももちろん好きですけど、草抜きが好き。雨上がり2日目くらいの柔らかい土の時に、草に指を絡めて抜くのが気持ちいいです。ただやりすぎて、最近はよく指がつるようになりましたけど。笑

 

小室 草抜きで工夫してることって何かありますか。より気持ちよく抜くために。

 

根岸さん 場所があったら鍬で土をほぐしてあげます。ほぐしてほぐして、草を根本から抜くようにします。一人でしゃべりながら草抜いてます。笑

 

哲学する草抜き

 

大野 草抜きしてる時っていろいろ考えるよね。僕もアヅマ堂の入り口にある花壇の草抜きをたまにやるんだけど、自分の中で「この草は抜かない」とか考えながらやってる。野菜でもそう。この草は取らずに、この草は取る。その根拠は何?っていう。哲学的なことを考えながらやってる。ドクダミとか「すっげー匂いすんな」とか、いろいろあるもんね。

 

根岸さん 草によって根の形も違うし。抜いてると想像以上に根が長く続いてて、「えっえっ!あ、ちぎれた~」ってなります。笑

 

大野 草刈機でやっちゃうと哲学的に考えることってないんだよね。

 

風景描写がきれいな映画がすき

 

榊原さん 「言の葉の庭」っていう新海誠監督の作品。雨の描写がすごくきれいな映画で、あれは新宿御苑かな。中学生と国語教師がそこで出会って、教師の女性がなぞかけみたいな感じで和歌をふわっと言うんですよね。「その意味はなんだろう」って中学生が考えるんですけど。

とにかく新海監督の映画は風景描写が本当にきれいで、特に緑がきれいなんです。癒されるなって思います。万葉集の和歌が出てていいなと思うし。

 

和歌をはじめたきっかけ

 

榊原さん 何年か前に資料館の仕事が嫌いになったときがあったんですよ。その時に「この仕事を好きになるにはどうしたらいいか」と思って、後鳥羽さんと言えば和歌だろうって感じで。

大学の時に平安文学の和歌とかはやってはいたんですけど、やっつけで卒論を描いて卒業しただけですわ。本当に好きになったのはここ何年間かなんですよ。「どうにかして、この仕事を好きになって、職場の居心地を良くしよう」と思って、がんばった結果がこれですね。

 

大野 じゃあ、ある意味必要に駆られて勉強した感じですか?

 

榊原さん そうですね。あと、私前に小説を書いてたんですよ。それをWebにあげたりして。その時に今は消しちゃったツイッターのアカウントがあって、フォロワーさんにめっちゃチヤホヤされた時期があったんです。

ただ小説って書けなくなる時期があるんですよね。フォロワーさん同士それぞれ小説を書くから、「Aさんの小説すごくいいですよね、大好きです」みたいな会話をしていて、私は書けないのにそれをずっと見てないといけないんですよ。「うわー」と思って、すごい辛くて。「前は褒めてもらってたけど、もうダメなんだ」と思って。

その時に「ちゃんと完結させられるものを続けたい」って思って。それが31文字の短歌だったんです。少なくとも、どんなに出来が悪くても完成させられないことはない。

夜明けの夢を見てるんだか、見てないんだか分からないような時にパッと閃くことが多いので、その時にFBにわーっと書いてまた寝ます。

 

短歌で海士町を有名にしたい

 

大野 賞をとったりもされてますよね。

 

榊原さん そうそう。島根県の県民文化祭っていうのがあって、金賞かな?知事賞の次なんですけど。でも、「それで満足しちゃいけん」って思ってて。

『短歌賞. com』ってサイトがあって、全国の短歌賞の情報が出てるんですけど、それにこの1カ月の間に3つか4つくらいは応募しました。そういうジャンルで海士町を有名にしたくて。ニッチなジャンルって大事じゃないですか。そういうカラーを出していきたいと思って。

 

大野 amatteそのものじゃないですか。笑

文学少女っていうのをイメージしてて、それこそ少女時代から短歌・和歌に触れてたのかなと思ってたんですけど、意外と最近なんですね。

 

五七五七七を創る

 

大野 31文字で終えるって、何か特別なトレーニングをするんですかね。

 

榊原さん スランプになるのが怖いから、ネタを溜めときますね。「そういえば」だったら5文字ですし、「かといって」とか。とりあえずそれで始めれば、何かが続くだろうと思って。

勝手にスマホが予測変換で次のいい感じの7文字を出してくれたりもするんですよ。だから、本当に偶然なんですよね。

 

小室 朝起きるか起きないか、みたいな瞬間に出てくる歌は、もう五七五七七になってるんですか。

 

榊原さん 7割できた状態で出てきて、それにちょっと足す感じですね。なので、1首1首は15分くらいで作ってると思います。

 

伊藤さん どういう場面を詠むかは、その時々で違うんですか。

 

榊原さん 自分でも何が言いたいか分からないなってやつもあるし。はっきり主語述語があるやつは作風として好きではなくて、詠むほうも読むほうも。誰もが読んだときに、「自分のことかな」って思える方がうれしいから、ぼやーっとしたのを出しちゃう。でもそこが、年配の方にはウケが悪いときがあって、歌会では点が取れんかったりします。

 

日常のいろいろな場面で和歌を思い浮かべる

 

大野 日常で、たとえばきれいな虹がかかるときがあるじゃないですか。そういう時に、「おおー!詠みたい!」ってなるのか。石ころ見て、「これだな」ってなるのか。

 

榊原さん とりあえず和歌を思い出すんですよ。虹がかかってたら、虹に関する万葉集の和歌を思い出します。

それは大学の頃に読んだ漫画がきっかけですね。虹に関する万葉集の和歌は一つしかない。しかも当時、虹は不吉なものと考えられていて、指さすと指が曲がるって言われてたみたいで。今だからこそ、虹はきれいなものとしてみんな見上げるけども、不吉なものだったらしいんですよね。

大体和歌が出てくるな。夜露が下りてるのをみて、伊勢物語で業平が高貴な女性を背負って駆け落ちするときに、その女性が「あれは何なの?」って夜露を見て聞いてくるけど、自分はちゃんと答えてあげられんかったなって場面を歌にするじゃないですか。

 

大野 分かんないけど、そういう描写があるんだろうね。笑

 

榊原さん そうそう。そのあと姫が消えてしまうんですけど、「なんで自分は露みたいに一緒に消えられなかったんだろう」って言うんです。朝通勤するときに、中里の駐在所の手前の畑のスギナに露がびっしり付いてるのを見て、「あー、こんな感じだったのかな」って思ったり。

あと、季節があるじゃないですか。秋は白秋で、「たしかに秋って日差しが白っぽいよな」とか。そういうのを感じるのがすごい好きですね。

 

寺田 野菜を見たら思い浮かぶ和歌とかもあるんでしょうね。

 

榊原さん あると思います。その時すぐに出てこないかもしれないけど。家帰って、「今日楽しかったな」と思ったら出てくるかもしれないし。

 

大野 おもしろい。ちょっとやってみたいな。

 

わたしの作風

 

榊原さん このあいだ、歌会に参加してきたんですよ。島根県の浜田市で71回も続いてる大会、石見短歌大会があって行ってきたんです。長年短歌を続けてらっしゃるベテランの方が多くて。

面白かったのが、歌が出てきたときにみなさんがちゃんと「よく分からないです」っておっしゃるんですよ。60首くらいあって事前にそのペーパーが配られてるんですけど、「私これ分かんないわー」ってちゃんと言えるのがいいなと思うんですよね。そらそうですよ。「人が詠んだのなんて分かるわけない」と思って、すごいスッキリしたんです。

私よく「何言ってるか分からん」って言われるんで、私の作風が変なのかなって思ってたんですけど、「そうでもないんだ」と思って。

前にFBで私が短歌詠み始めたとき、一人の知人が「お前何言ってるか分からん」ってコメントくれたの思い出しました。「ちゃんと訳を書けや!」って言われて、いいやつだなと思いましたね。笑

 

大野 ワードに書いてるんですか?

 

榊原さん いや、突然FBにわーっと書きます。ただ、新人賞に応募するためには未発表のものを30首くらい溜めないといけないので、最近はあんまり出せないですね。

 

大野 それはどこに書いてるんですか。

 

榊原さん ふんわり頭の片隅にあって、まだ出してないですね。突然出てくるんじゃないかな。

 

寺田 ここに有紀さんの作品があるので。

 

榊原さん 『「もし俺が死んだら灰は食ってくれ」「そうね」と言ってケーキを食べる』っていう短歌を詠んだんですけど。クリスマスイブの日ですね、2016年か。これを詠んでFBに載せたときに、「なんでこれ詠んだの?」「これどういうことなの?」って友達が反応するわけですよ。

私はその日に娘と一緒に海外ドラマ見てたんですよ。医療系のちょっと怖いミステリーで、その時は旦那さんの骨を奥さんが食べちゃったって話だったんです。そういうこともあるのかーと思って、歌にしましたね。

 

海士で広がる和歌・短歌の輪

 

大野 海士は今結構、和歌盛んですよね。やりたいんだけど、時間がいつも合わなくてできないんだよね。

 

榊原さん 毎月だいたい第2土曜日の13:30からですね。このあいだ、和歌の会に小室さんを引きずり込んで。笑

 

小室 最高でした。詠むのは恥ずかしくて、その日は詠まなかったんですけど。最初に解説してくださるんですよ。後鳥羽院の遠島百首って本から3、4首くらい選んで解説してくださって。それがおもしろいんですよ。それを聞いてるとこっちもイメージが湧いてきますね。今の生活に関連するようなものが浮かんできます。

 

わたしの宝物「アライさん」

 

榊原さん これ、石なんですよ。

 

 

私、全国から和歌・短歌・俳句を募集して作品が届く企画の事務局の仕事をしてまして、隠岐後鳥羽院大賞っていうんですけど。なかには電話でしかお話ししたことがないのに、仲良くなる人がいるんですよ。

これを送ってくれた人は俳句をやってる人で、「自分は病気で身体を悪くしていて、しかもコロナで外に出られないんだけども、ちょっと体調がいいときに外でお散歩して、その時に河原で拾った石です」って言ってくれて。「見る人によって、マリア様とかいろんなものに見えると思うけど、自分の好きなものだと思って楽しんでください」ってお手紙が来たんです。

この台座も最初からついてたんです。箱は私が後から入れたものなんだけど。封筒が少し膨らんでる部分があって、ガチガチ言うなと思って開けたら、これが出てきたんですよ。

これは新井さんって方からもらったので、「アライさん」って名前にしたんです。

今年、夏越の祓(「なごしのはらえ」)と言って、隠岐神社で茅の輪(ちのわ)くぐりをしたんですけど、新井さんが良くなるといいなと思って、これ持って通過して写真に収めてその写真を送ったりもしました。

 

 

新井さんもいろんな賞に応募してて、入選したときは切り抜きを送ってくれたりします。

 

寺田 三郎岩に並べて写真をとっても良さそうですよね。四郎になるかな。

 

榊原さん アライ四郎?いいですね。

 

ここに来るきっかけをくれた夫に感謝

 

榊原さん 密かに感謝を伝えたい人はいますか?

 

根岸さん 密かに...やっぱりねぎやん(夫)かな。

 

大野 普段あんまり「ありがとう」とか言わない?

 

根岸さん 物事に対しては「ありがとう」って言うんですけど。一番は、ここに来るきっかけを作ったのがねぎやんなので。

ねぎやんに振り回されてついてきたっていうのが、最初の私のポジションやったんですけど。なんだかんだ私の方が楽しんでる、というかハマってます。

 

大野 それ、ねぎやんも言ってた。「あかねの方が島暮らし気に入ってる」って。

 

根岸さん 地元の友達に「また、ねぎやんに振り回されて、次はどこ行くん?」って言われるんですけど。それこそ、サモア行って2年離れてからのここなので。

けど、ねぎやんがいなかったら、ここに来なかったし、なんなら海士町って地名すら知らなかったし。なので、本人には言わないけど感謝してますね。

 

榊原さん 萌え。笑

 

大野 ねぎやんがまたサモアに戻るとかなったら、どうするの?ここ割と気に入ってるでしょ。次は、振り回す側になるかもね。

 

根岸さん 可能性ありますね。私ここに来るまで27年間実家出たことなかったんで。実家大好き人間やったんですけど、意外と住んでみたら、そこで楽しめるんだなって。

だから「どこ行ってもできるんちゃうか」って思いますね。せめて、電気とお湯があればどこでも寝れるタイプなので。

 

大野 電気とお湯と畑があれば、だね。その3種の神器がそろえば、どこでもいけるっていうのは結構自信になるね。

 

根岸さん そうですね。ここに来てから本当に生きる力がついた気がしますね。「生きてる」って感じが日々します。

 

今日のゲストは「創り出して楽しむ」ことに長けてました

 

大野 二人の共通点が、何かを創り出すとか、創造するってとこにあるなって感じましたね。フィギュアの背中を写真に撮るとか。やらなくてもいいことなんだけど、「創り出してそれを楽しめる」っていうのが二人の共通点だなと今日聞いてて思ったね。

 

 






吉田 愛梨
Eri Yoshida

amatte 編集室 / 海士町在住
1992年生まれ、京都育ち。社会学修士。大学院在学中に海士町を訪れ、この島特有の暮らしの営みやその中で育まれる人間関係に興味を抱き2019年4月に移住。1年間の短期滞在の予定だったが、居心地が良く引き続きこの地で暮らすことに。住んでいるのに、旅をしているような気分になれる瞬間が好き。

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